(耕論)マイナス金利の功罪 加藤出さん、植田和男さん:朝日新聞デジタル

世界経済の先行き不安が強まるなか、日本銀行のマイナス金利政策が始まった。意表を突いた政策転換は、成長を取り戻すための攻めの一手なのか。市場にショックを与えるだけの奇手なのか。日銀を知り抜く金融のプロ2人に聞いた。

■市場の不安、さらに膨らんだ 加藤出さん(日銀ウォッチャーとして知られるエコノミスト)

日銀がマイナス金利政策を打ち出しましたが、先週、円高が急速に進み、株価が大きく下がった。今のところマイナス金利の悪い面が出てしまっていると思います。

マイナス金利政策で、国内の債券の利回りを押しつぶせば、ある程度は円安の効果をもたらすはずですが、絶対そうなるとは限らない。海外要因で円高圧力が加わると、押し戻されてしまいます。

■手詰まり感露呈

一方、今回のように長期金利までマイナスになると、多くの人が金融機関の収益が苦しくなると予想するので、銀行株が下落する。市場の反応が、日銀の想定以上に激しかったということでしょう。

もっと大きな問題は、マイナス金利をやったことで、日銀の手詰まり感が目に見えてしまったことです。国債の金利があまり下がる(価格は上がる)と、多くの銀行は日銀に国債を売ろうとしなくなる。以前買った国債を売れば、値ざやは稼げるけれど、戻ってきた現金を何で運用するのかという問題が残るからです。マイナス金利を始めたことで、日銀が銀行から国債を大量に買い入れて市中にお金を流す量的緩和の追加が、より難しくなってしまった。

日米欧の中央銀行は、いわば「あうんの呼吸」で量的緩和をしてきただけに、米欧は日銀のマイナス金利政策を許容すると思います。ただ中国からは、日本がまた通貨安で楽をしようとしていると見える。中国の場合、人民元の切り下げは資本流出を加速させるので、単純な通貨安競争にはならないでしょうが、東アジアの潜在的な火種になりうると思います。

バブル崩壊以降、日銀は短期金利をゼロまで押し下げ、次に量的緩和、2013年からは黒田東彦(はるひこ)総裁のもとで異次元の国債買い入れを行いました。金利を引き下げて、国債などの安全資産での運用を難しくし、株などのリスク資産への投資を促してきた。機関投資家や個人をむち打って、本来とりたくないリスクまでとらせてきたわけです。そこへ、年初からの株安、円高です。「日銀ははしごを外す気か」という市場の不安を振り払うために、マイナス金利に踏み切るしかなかったのでしょう。

しかし、市場関係者や一般の企業の方と話をしていても、マイナス金利に不安を感じている人が多い。銀行の収益が悪化していくと、中小企業への貸し出しの余力がなくなり、かえって融資が減る恐れもある。黒田さんの過去2回の緩和にくらべると、反応が明らかに違います。市場の不安を払拭(ふっしょく)するためにやったはずのマイナス金利が、別の不安を引き起こしてしまったように見えます。

■成長促す政策を

日銀は去年の秋から、2%のインフレ目標達成に関する約束を微妙に変化させようとしていたと思います。量的・質的緩和の結果、企業収益は過去最高で、大手企業では賃金のベースアップもあった。無理に目標達成を急がなくてもいいという雰囲気も出てきて、安倍政権も「新3本の矢」ではインフレ目標には触れなくなった。

あの時点で、「2%をいつまでに達成します」と掲げるのではなく、「2%を目指し努力を続けます」くらいにずらしていく作戦もあったかもしれません。ただ、黒田さんはそれを選択しなかった。

結局、金融政策だけの「一本足打法」に頼ってきたアベノミクスの限界が露呈したということでしょう。金融政策は、カンフル剤的な効果はあっても、潜在成長率を高めるものではない。異次元緩和は、日本経済を明るくするきっかけは作りましたが、実物経済に大きく効いたわけではない。社会に成長期待があれば、金融政策がもっと効いてくるのですが、そこに不安があると、どんなに中央銀行が頑張っても限界があります。

アベノミクスの原点に戻り、民間のイノベーションを促す構造改革や人口減少への対策など、成長期待につながる政策を進め、将来への見通しを示すことが何よりも必要です。(聞き手・尾沢智史)

かとういずる 1965年生まれ。東短リサーチ社長・チーフエコノミスト。著書に「日銀、『出口』なし! 異次元緩和の次に来る危機」など。

■政策の幅拡大、日銀の延長戦 植田和男さん(日銀審議委員を務めた東京大学教授)

今回、日銀が導入したマイナス金利政策は、すでにデンマークやスイス、そしてユーロ圏で採用された手法です。金融の世界では緩和のためのあり得べき選択肢であって、「賭け」ではないのです。

また、黒田東彦(はるひこ)総裁はマイナス金利に否定的でしたが、実際に導入したことを「トリック」と批判するのも当たらないと思います。

マイナス金利の採用は、中央銀行としての政策の余地を拡大した、ということに尽きます。

日銀の場合、3年間にわたる量的、質的にも未曽有で「異次元」といわれた金融緩和にもかかわらず、景気や物価など肝心の実物経済に動きが見られませんでした。一方、すでに国債の発行総残高の3割強を日銀が保有していることを考えると、さらにどれだけ買い増せるのか、今後を見通すことが困難になりつつあった。

「日銀にできることは、もはや限界に近いのではないか」という市場などで広がった疑念に対し、「いやいや限界の底はまだ深い」と宣言したのが、今回のマイナス金利ということでしょう。

■さらに利下げも

さらにどこまでマイナス金利幅を拡大できるのか。欧州の先行例から見て、市中銀行の小口預金をゼロ近傍にしたまま、中央銀行はマイナス1%程度まで金利を下げることが可能だといえそうです。

だとすれば、今後、2~3回程度の追加利下げが可能と想定できます。いわば、従来の政策では終了間際だった試合を、延長戦に持ち込むのを可能にしたわけです。

問題は、あと2~3回程度の利下げ延長戦の間に実物経済で力強い上昇が見込めるかどうかです。成長戦略も果実が実るには、時間がかかる。財政の出動余地も大きくない。今、マイナス金利以外に金融面で有効なものは見あたりません。政策を決断した日銀の悩みは深いだろうと推し量れます。

通常は金利の低下につれて自国通貨も下落します。日銀は円安のためにマイナス金利に踏み切ったとはいっていませんが、欧州や中国など他の主要国通貨が同様の手立てを強めれば、通貨安戦争に陥る可能性があります。そうなると世界全体で緩和に走ることになり、それぞれの利下げの効果は打ち消されてしまいます。

ただ、今回の日銀のマイナス金利は、決定直後こそ円安になりましたが、その後は、原油安や中国経済の先行き不安、米国の追加利上げが遠のいた、などといった観測が入り乱れて、世界的な株安と急速な円高が進みました。現時点では、政策の効果が変動に追いつかない結果になっています。

■カードは少ない

これは日銀にとって想定外の事態でしょう。むしろ世界で強まるリスク回避のなかで、マイナス金利の決定が市場変動の引き金をいくぶん引いた面は否定できません。株安、円高が続くなら、予定される消費税の増税も、延期に追い込まれるかもしれません。

今後、もしもマイナス金利幅の拡大が限界に達してしまったとき、手段がないわけではありません。「現金の金利のマイナス化」という手法が残っています。例えばお札を額面の9割しか使えないことにすれば、10%のマイナス化になります。日銀などの窓口にお札を持って行き、マイナス化の切手を貼ってもらわないと市中で通用しない、という仕組みです。

とはいえ、これは劇薬的な政策です。通貨の意味、中央銀行が守るべき信用秩序のあり方を根底から変えてしまう可能性がある。容易に選択できる手段とはならないでしょう。となると、今回に続く2~3回ほどの利下げが、現実的には日銀に残された切り得るカードにならざるを得ません。

日本に限らず「さらなる緩和策」を求める市場に応えてきた中央銀行に残されたカードは、そんなにありません。それを見抜いた市場に相対する金融当局は、かつてない苦境が続くとしかいいようがありません。(聞き手 編集委員・駒野剛)

うえだかずお 1951年生まれ。専門はマクロ経済学、金融論。98年4月から7年間、日銀の最高意思決定機関の政策委員会審議委員。著書に「ゼロ金利との闘い」。

◆キーワード

<日銀のマイナス金利政策> 民間金融機関は日銀に預けるお金のうち、一定額を超えた分に0.1%の金利を支払わなければならない。日銀は長期国債の大量買い入れも続け、金利全般に下押し圧力をかけてデフレ脱却を狙う。先月末の政策決定で長期金利が一段と下がり、今月9日にはマイナスを記録した。

日銀のマイナス金利政策(イメージ)

加藤出さん=堀英治撮影

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12212165.html

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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