左派こそ金融緩和を重視するべき 松尾匡・立命館大教授:朝日新聞デジタル

http://digital.asahi.com/articles/ASH2971TXH29ULFA043.html
■金融政策 私の視点

――松尾さんはマルクス経済学者を名乗っています。左派の立場こそ本来、金融緩和を重視するべきだとの主張です。

金融政策 私の視点
「欧米では左派は金融緩和に賛成という色分けが普通だ。金融緩和は雇用を拡大させる効果があり、それは左派が重視するものだからだ。一方、物価が上がってインフレになれば資産が目減りするから、お金持ちの階級が金融緩和に反対する。こういった人々の支援を受けた右派の政治家は普通、金融緩和については否定的だ」

――日本では自民党が金融緩和を進める一方、共産党が反対して、政治的立場と政策がねじれています。

「なぜ左派が金融緩和に反対するのか。言ってしまえば、左派は雇用問題が一番深刻な若い世代の支持がだいぶ細っていて、古参の支持者に依存する現実がある。退職して年金生活者になっている支持者は金融緩和による物価上昇を恐れる気持ちが強い。それが一つの理由ではないか」

――量的緩和はどういう経路で効果が出るのか見えにくいと指摘されます。

「人々が将来物価が上がると思えば、名目金利から予想インフレ率を差し引いた実質金利が下がる。そうすれば設備投資が増える。本来は消費が増えて、景気の拡大が支えられるべきだが消費増税のせいであまり期待できなくなった。もう一つは円安の経路だ」

「ひどい不況の時、金融緩和で作ったお金は、直接には使われず銀行にため込まれてしまう。だから、そのお金が世の中に回る仕組みをつくるために、安倍政権は旧来型の公共事業を第2の矢として実行し、それが効いた。質はともかく、景気が拡大する方向への力が働いているのだと思う。本来は、公共事業よりも、介護や福祉の働き手を増やすために使うべきではあるが」

――松尾さんは雇用を重視しています。3・4%まで完全失業率が下がった点は評価していますか。

「全体で見れば雇用は拡大している。本来ならば正社員のような質の高い雇用が増えるべきだ。安倍政権は雇用の流動化を進めていくので、その意味では質の低下を伴いながら、雇用が拡大していくかもしれない」

「雇用関係の指標は遅れて出てくる。消費増税の影響で、昨年は景気が後退したから、その影響はこれから出てくると思う。だから、当面一時的に、完全失業率や有効求人倍率といった雇用に関する指標も数字が悪くなるかも知れない」

――左派の学者は本来、大企業が強くなる政策には反対なはずです。でも円安と株高を通じた金融緩和の波及ルートでは、まず大企業が強くなります。

「中小企業は円安で原材料価格が値上がりして大変だ。ならばもうかっている輸出産業の大企業の利益に課税して、輸入原材料が値上がりして困っている中小企業に激変緩和の補助金として手当てしてもいい。輸入側の損を全部カバーしても、必要な課税は大企業のもうけの一部にとどまるので、これで景気が悪くなることはない」

――円安は輸入物価を上げるので家計にはマイナスだという批判もあります。

「家計が苦しい状況はわかるので、何とかしなければいけない。食料品に限って消費税を非課税にしてはどうか。一方で円高の時、低価格の輸入品と競合していた農家などは円安のおかげで助かっている。だから再び円高に戻す必要はない」

――2年程度で2%という物価上昇目標は、本当に達成できますか。

「2年と言えば、僕の受け止め方は2015年内。それは絶望的だと思っている。昨年4月の消費増税が景気に悪影響を与えたのが原因だ。でも、原油価格の下落の方は、物価目標の達成にマイナスとはならない。日銀が金融緩和で物価を上げることに対する抵抗が少なくなるからだ」

「期限の設定自体は必要だったと思う。ただし、『えいやっ』と決めた感がある。同時に消費増税はやめておくべきだった」

――構造改革も成長戦略もいらないというのが持論です。

「第3の矢は基本的に金融緩和の足を引っ張るだけだ。確かに働く意思のある人がみんな雇われた完全雇用になれば、それ以上景気が拡大できない経済の『天井』にぶつかる。そうなれば、天井そのものの成長を図る成長戦略の議論がなされてくる。だが、規制を緩和すれば天井が成長するという話などは多分うまく行かない」

「百歩譲ってそれが正しいとしても、そういうことが課題になるのは実際に完全雇用になった後だ。失業者がいて、企業にもまだ雇う余地があり、景気がまだ拡大していける時に、わざわざ天井を上げる必要はない。天井をあげようとして生産性を追い求めれば、かえって失業者が出る原因になる。人々は職を失う恐れを感じて、安心して消費ができなくなって、需要を押し下げてしまうのではないか」

――成長しないと私たちの生活はより豊かにならないのではないでしょうか。

「どの程度天井が成長すればいいか、そもそも成長すべきかどうか。天井を打った時には論点になりうる。雇用が目的という意味ではなく、国内総生産そのものが伸びるという意味での成長に意味を見いだせない人はいてもいい」

「しかし、今はそうしたことを議論するより、働きたくても働けず、暮らしでひどい目にあっている人が放置されている問題を解決するべきだ。特に若い人がそういった目にあっているのは、当事者だけでなく、社会にとっても大きな問題だ」

――松尾さんは量的緩和をあえて「お金を作る」と表現していますが、「財政ファイナンス」だとの批判はどう考えていますか。

「財政ファイナンスが悪いという議論はデフレ不況から抜け出そうとする今の状況には当てはまらない。ものをつくる供給能力が過剰で、ものを買う需要が不足していており、仕事に就けない人がたくさんいるような時は、金融緩和で作ったお金を財政支出に回して、需要を拡大しても、供給能力がフル稼働しないうちには、悪性のインフレにはならない」

「日銀が買い、日銀の金庫に眠っている国債は形の上で存在しているにすぎない。事実上返す必要もなく、市場に出回ることもないから、価格や金利の動向に影響を与えない。ただ、物価が上がりすぎた時、日銀が国債を売ることでお金を吸収して、インフレを抑えるのに使える」

――市場はそうした理論を受け入れるでしょうか。

「中央銀行が国債を買って財政の穴埋めになれば、国債の信認がたちまち失われると言われたが、現実にはそんなことは起こっていない。市場参加者は冷静でそんなことはないだろうと思って行動している」

――過去には国債を発行し過ぎて高インフレになった国もあります。そうした恐れはありませんか。

「需要が供給に追いついて、供給能力以上にお金を出せば、インフレは悪化する。途上国の例は良く聞くが、生産能力を超えてお金が発行されたからだ。確かに政府が無からお金を作ればいくらでもまかなえるので楽で仕方がない。だから、歯止めが必要だと考えるのは自然だ」

「物価目標も歯止めのルールの一つだ。2%の物価上昇目標を守ろうという話は、そこまで達したら金融緩和をやめて金融引き締めに転じるという約束だ。これまでのように中央銀行が直接国債を買うのを禁じるのも、歯止めの一つだった」

「昔は物価上昇を随時把握する統計技術が乏しかったから、そういう歯止めにしていた。体重計が正確でないので、『ご飯は1日1杯まで』という歯止めを作って肥満防止をするようなものだ。そのため、病気でガリガリになっても制限を守らなければならない。でも、正確に体重が量れれば、一定の体重を維持するように食べる方式、つまり物価目標政策が採れる」

――政治家が喜びそうな話です。

「自民党だけではなく、共産党も社民党も、政治家はお金がなければ公約は実行できない。民主党政権がうまくいかなかったのは、高校無償化や子ども手当を掲げたが財源が足りず、公約違反だと批判された。ところが、金融緩和でお金を作っていれば全部でき、おまけに景気も良くなったはずだ。民主党政権には、そういう発想はなかった」

まつお・ただす 1964年生まれ。神戸大院経済学研究科博士課程修了。久留米大経済学部教授を経て、2008年から立命館大経済学部教授。(聞き手・福田直之)

立命館大経済学部の松尾匡教授=福田直之撮影

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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