景気を動かせるのは企業だけだ 日本総研・藻谷浩介氏:朝日新聞デジタル

http://digital.asahi.com/articles/ASH3572CMH35ULFA02Z.html
■金融政策 私の視点

――日本銀行は2%の物価上昇を目指し、大規模な金融緩和を進めています。どう見ていますか。

金融政策 私の視点
「黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁は『反証不可能な理論は科学的命題とはいえない』と批判する『反証主義』を唱えたカール・ポパーに刺激を受けたという。日銀の金融政策の前提となっているのは『金融緩和でインフレ期待が高まればものが売れる』という『貨幣数量説』だが、これは『ものが売れないのはまだインフレ期待が高まっていないからで、さらに金融緩和が必要だ』という逃げ口上を防げず、永遠に反証できない理論だ」

「つまり、非科学的な命題の典型であることに、自分で気づいていないはずはない。政策は検証不可能な『インフレ期待』を持ち出す非科学的な議論に依拠すべきではない。実際、足元で市場に流しているお金はバブル期の8倍近くに達しているのに、小売り販売額も個人消費も当時を超える数字にはなっていない」

「こうしたことは日銀の職員ならわかっているはずだ。上層部をリフレ派に乗っ取られたので全員で言うことを聞いている。いつまでサラリーマンをやっているのだろうか。『インフレ期待を高めるために緩和する』という精神論に対して、日銀の職員は『今の政策は実証的に考えて効かない』ときちんと反対しなければいけない。ぜひ身を賭して反対して欲しい。このままでは後で責任を問われるだろう」

――日銀のもくろみ通り、2%の物価目標は達成できるのでしょうか。

「たとえ2%になったとしても、消費が増えるという理屈はない。年金受給者が増えている日本では、物価が上がれば消費が増えるどころか、ますます高齢者が財布のひもを絞って消費が減る。老後が心配だから、数少ない資産を守る人が増えていく。日銀の政策は目標も手段も両方間違えている」

――インフレ期待を除いても、株価の上昇や円安を通じて金融緩和の効果はあるという見方があります。

「現に日経平均が2倍以上になったのに、小売り販売額は2倍どころか2%も増えていない。株を持つ高齢者富裕層が消費をしないので、消費意欲が強い現役世代にはお金が行き渡らず、需要が増えないのだ。株価が上がれば消費が活性化するというモデルを振り回して、現実に目をつぶるようでは、経済を語るものとして失格だ」

「円安で輸出を増やして日本経済を活性化するというのも、二重に現実とずれた話だ。第1に超円高の2012年でも日本の輸出額は62兆円と、リーマンバブル時を除けば史上最高の水準だった。つまり為替の影響を受けにくい高機能製品が輸出の中心になっているので、円安になってもさほど輸出を押し上げる効果は出てこない。第2に、輸出が増えても国内消費は増えない。日本の輸出額は2012年でもバブル期の1・5倍、昨年は円安による外貨建て売り上げの換算上の増加で1・8倍に達したが、国内消費はまったく伸びていない。理由はメーカーが雇用を増やさずにロボットなどの機械設備の増強で増産に対応するためだ。実際問題、いま日本で増えているのは65歳以上の非正規雇用の労働者だけで、64歳以下の就業者数は減っている。これまた古典的な経済理論の射程外にある現象だ」

――金融緩和のリスクはどうお考えですか。

「緩和をやめると公言したとたんに株価が下がるかも知れない。金利が上昇して日本売りが始まるかも知れない。だから、怖くてやめられない。もう一線を越えて戻れないところまで来てしまっている。例えてみれば、12年のアベノミクスの始まりは『北支事変』で、一昨年春の大規模な金融緩和はソ連相手の『ノモンハン事件』だった。そこでやめておけばよかったが、昨年秋の追加緩和は米国相手の『真珠湾攻撃』のようなもので、もう戻れない一線を越えたのかも知れない」

「地方を回っていると分かるが、日銀は地域金融機関の声なき非難の的になっている。内需の拡大効果が出ない金融政策で、国債の金利をマイナスにまでして、金融機関の収益を消滅させている。こんな状態にしておいて、だめなら統合しろと言うのは、出口のないリストラだ。本来、日銀は金融秩序の守護者であるはずが、乱す側に回ってしまった。しかも多くの金融機関は、金利が上昇して国債が値崩れし始めたら本当に行き詰まってしまう」

――藻谷さんは長らくデフレの正体を「人口の波」と主張されてきました。

「日本経済の停滞は日銀の貨幣供給が足りなかったから起きたわけではない。1995年をピークに現役世代が減っているため、量を多く作れば売れるという時代が終わった。なのに、多くの企業はそれに気づかず、大量生産を続けて際限なき値崩れを引き起こしている。不動産についても、現役世代の数が増えていないのにマンション建設の続く東京都の空き家率は11%に達しており、これでは言われているような地価の上昇は起きようがない。このように日本で起きた『デフレ』の正体は、貨幣現象ではなく、過剰在庫の安売りによる値崩れなので、金融緩和は改善を生まないばかりか、過剰供給を促進して事態を悪化させかねない」

「昨年までに団塊の世代が65歳を超え、15~64歳の生産年齢人口は大きく減っている。65歳以上の就業者は増えているが、そうはいっても働いている人の9割は64歳以下だ。政府が進める女性就労の促進の効果と、団塊世代の多くがまだ非正規で働いている分で、就業者の総数はまだ若干増えているが、団塊が70歳を超える5年以内には減少に転じるだろう。また、正規労働者は減っているので、給与の総額もよほどの賃上げを続けない限りは増えない。だから内需も増えていかない」

――雇用は改善していますが、生産年齢人口の減少が大きな背景ですね。

「団塊世代の65歳超えで人手不足になったから、失業率が下がり、有効求人倍率が上がったが、これは景気とは無関係に起きる現象だ。これを補うべく女性就労を増やそうとしている安倍晋三首相には感謝したいが、雇用環境が改善している原因はアベノミクスの成果ではない」

――ではデフレ克服には何が必要なのでしょうか。

「供給企業が供給過剰をやめるしかない。一つのカギは最低賃金を上げることが必要だ。これによって、賃金を下げては商品の値下げを繰り返すブラック企業の経営を難しくし、そこに低賃金で雇われてきた人員を、まともな会社に移すことができる。ゆっくり上がっていく最低賃金を払えない企業がゆっくり退場することで、供給過剰を是正できる。人手不足は現役世代の減少に伴って恒常的に続くので、会社を少々つぶしても失業者があふれたりはしない」

――その点で、安倍首相による企業への賃上げ要請はどう見ていますか。

「高く評価する。ただ、問題は賃金水準ではなく賃金の総額が増えるかどうかだ。多くの企業は、団塊の世代の退職で浮いた給与をそのまま若者に回しているわけではなく、給与総額は減らしている。少々の賃上げでは、団塊の世代が抜けて減った分を超えて賃金の総額を増やすまでには至らず、従って消費は増えない」

――藻谷さんはリフレ論者について、政府が市場を操れると思い込んでいると批判しています。

「日本人は昔から、小乗仏教や禅宗よりも大乗仏教が好きだ。大乗仏教を簡単に言えば、個人の修行では解脱は無理なので、仏様に救っていただくという考えだ。人間の限界をわきまえた謙虚な考えだし、あの世で救ってもらえるという考え自体を否定はしない。しかし、この世でも救っていただけるとなると、他力本願の行き過ぎではないか。そこに企業や個人は努力しなくとも、政府の努力次第で景気は良くなる、というような極論の広まる土壌がある。これはかつてのマルクス経済学と同じで、科学的、実証的な考えではない」

「常に国が何とかできる、してくれると思っている人が、景気が悪いのは日銀のせいだ、と言い始める。しかし、これだけ金融緩和をしても動かない景気を動かせるのは、企業だけだ。人口減少に対応した努力をできるかどうかの問題、企業が自分で修行をできるかという問題なのだ」

もたに・こうすけ 1964年生まれ。東大法卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入り、米コロンビア大学経営大学院修了。2012年から日本総合研究所主席研究員。(聞き手・福田直之)

日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員=福田直之撮影

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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