急成長著しい南アジアのビジネスを“面”の物流で支える

東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドを中心とした南アジア地域を取り巻く環境が、今、大きく変化している。“チャイナプラスワン(china plus one)”として期待される同地域には、すでに多くの日系企業が進出している。一方、近年は人口増加や産業発達に伴って中間購買層が拡大し、世界の生産基地だった同地域は一大消費地としても成長しつつある。さらにはASEANを中心とした自由貿易協定(FTA)が次々と発効され、経済的なボーダーレス化が急速に進んでいる。

 この南アジア地域への新規進出、あるいは既存のサプライチェーンの拡大を日系企業が目指すとき、最大のネックとなるのが物流インフラの未発達、とりわけ陸路の不整備だった。実際、現地の物流業者に委託した場合、日本に比べれば、未着や遅配などの事故や不具合も少なくないという。このような状況のもと、南アジア地域において日本並みの高品質と安全性で提供される「SS7000(上海からシンガポールまでの約7000kmの陸路輸送ルート)」に期待が寄せられている。

成長著しい南アジアおよびインドで“面”のロジスティクスを展開中の総合物流企業、日本通運でこの地域を統括している南アジア・オセアニア日本通運 地域営業開発室の池田秀次長、小谷宗茂課長、泉泰三朗課長の3氏に話を聞いた。

最近、南アジアの国々の経済格差を有効に利用するサプライチェーンの構築を目指す日本企業が増えている。

地域営業開発室
課長 泉 泰三朗 氏

地域営業開発室
課長 泉 泰三朗 氏

「例えばカンボジアで一次加工し、タイで最終的に仕上げて日本に輸出するなど、国境をまたいだ水平分業が加速しています」と泉氏は説明する。「ですから、ASEAN諸国への進出や既存ビジネスの拡充を考える企業は、1国1国の“点”ではなく、南アジア全体を“面”でとらえる必要性が出てきています」

では、日系企業が同地域に進出する上で、最も留意すべき点は何か。日系企業が海外に出る際、最優先に検討するのは法人税率や電気代といった工業団地のベネフィットになりがちだ。ところが、事前のサーベイが不十分な場合、「工場稼動後のサプライチェーンがうまくいかない」という話も少なくない。実は、現地工場の稼働後が正念場になるということが日系企業にはあまり認識されていない。

さらに、FTAに絡む関税の取り扱いへの対応も不可欠だ。いくらASEAN自由貿易地域(AFTA)で自由貿易の流れが加速しているとはいえ、国ごとに異なった通関の仕組みがある。そのレギュレーションを確認しながら、1つひとつ処理しなければならないが、コア・ビジネスに資源を集中しなければならない企業にとっては、決して容易なことではない。

これらの課題を解決するべく、南アジアの物流を面で捉えるために日本通運が取り組んでいるひとつが、南アジア陸路輸送ネットワークであり、その中心的役割を担うのが、中国の上海から華南、ベトナムのハノイ、タイのバンコクを経て、シンガポールまでの約7000kmを結ぶ陸路輸送ルート「SS7000」だ。

■南アジアで実現した日本品質の物流

地域営業開発室(タイ分室)
課長 小谷 宗茂 氏

地域営業開発室(タイ分室)
課長 小谷 宗茂 氏

アジア新興国のインフラ整備は、日本からみればまだ遅れている。「開発時に行ったルート調査中、道ばたに打ち捨てられたコンテナを目にすることもありました。私たちなら一目で『こんな悪い状態の道路にコンテナトラックを走らせたら、支点荷重オーバーで、すぐに車がもたなくなる』とわかるのですが」と小谷氏は表情を曇らせた。

同社のルート開発時には実走による振動実験が何度も行われ、安全性を確認。サービス開始後も定期的にコンテナを積載しての輸送検査を行っている。

定時配送という考え方や管理体制についても、日本と南アジアとでは“常識”が異なるらしい。ある日系企業が地場の物流業者をチャーターし、ハノイからホーチミンまで商品を運ばせた際、通常4~5日で届くものが1週間経っても届かなかった。調べてみると、チャーター便のはずが、途中で他社の荷物の集荷配送を行っていたという。「当社では基本的に自動車もトラックもGPSを搭載し、物流状況の“見える化”を行っています。こうした品質管理は、日本では当然のことでも、現地のお客様にはかなり驚かれます」(泉氏)。

SS7000の幹線輸送では、発着、結節点の同社現地法人を軸に、日本型の管理体制が整えられているため、決められた時間に到着する定時制という点は現地でも高く評価されている。

また、国境を越える際の通関についても、同社がこれまでの海上・航空輸送ビジネスで築き上げてきた実績をベースにして、各国の税関や関係省庁と築き上げてきた信頼関係があったため、ユーザー企業の負担をできる限り低減したシステム構築が可能となったという。

■ 陸路輸送ネットワークで南アジアを“面”で結ぶ

南アジア地域に進出する際、あるいは、既存のサプライチェーンをさらに拡大する際、安全かつ利便性の高い広域物流が確保できるにしても、高品質の幹線輸送によってもたらされる経営上のメリットには、どのようなものが考えられるのだろう。

泉氏は「SS7000は4つのポーションに分かれます。それらを個別に、航空便と船便の中間輸送サービスとして利用いただけるのが最大のメリットです」と説明する。海上なら十数日かかるハノイとバンコク間が、陸路なら3、4日で輸送できるため、ユーザー企業からは「サプライチェーンの回し方が飛躍的に効率化された」「在庫が圧縮できて、キャッシュフローも改善された」と評価を得ているという。

海上輸送の場合「毎週水曜日」など発着日時は一般的に固定されているが、陸路ならチャーターすれば出発日時を選べ、販売体制に合わせた輸送モードが構築できるため、四半期ごとの売り上げ調整目的で利用されることもあるらしい。

さらにSS7000の起点、結点になる上海、ハノイ、バンコク、マレーシア、シンガポールには、定温倉庫設備、倉庫内外監視カメラ、赤外線侵入感知装置、最新倉庫管理システムなどの導入された「高機能倉庫」を配置。「ディストリビューション(在庫型物流センター機能)もクロスドック(入荷商品を在庫することなく積み替えて出荷する拠点機能)も行える高機能倉庫が“調整弁”の機能を果たすので、そこを起点としたJust In Time(JIT)配送や小口混載貨物輸送(LCL)も可能になります」(泉氏)。

さらには、陸路で周辺地域から集めた製品をSS7000沿線各所の高機能倉庫に集約し、これをハブ&スポークの拠点として、そこからグローバルネットワークに乗せていくというビジネス展開も想定されている。

それだけではない。南アジアを「消費市場」と捉えたビジネス展開でも、SS7000の果たす役割は大きい。

例えば、各高機能倉庫はASEANの“消費地”であるタイ、マレーシア、シンガポールに商品を配送する際の物流の拠点としても期待される。

「バングラデシュやベトナムで作ったものをシンガポールのフリーゾーン内にある施設に集約して、域内消費市場向けの JIT前受けハブ、あるいは国際物流へのハブにすることも可能です」と泉氏は言う。

「陸路輸送ネットワークで南アジアを“面”で結ぶ」という日本通運の戦略で、特に注目すべきは、巨大な消費市場として成長著しいインドに対するロジスティクスの構築である。

「タイで作っているテレビやデジタルカメラなどをインドに輸出するとき、バンコクからインドのキーステーションであるチェンナイへの輸送は、従来の海上輸送だけなら17日かかっていました。しかし、SS7000のタイ・マレーシア陸路ルートとマレーシアからの海上輸送を組み合わせれば約1週間近くの時間短縮を実現できるのです」(小谷氏)。

さらに、2009年12月から、日本通運はインドの南部地域に点在する大手自動車メーカーの各パーツサプライヤー50社以上から日々定時の集荷、JIT配送を行う「ミルクラン(巡回集荷)業務」も提供してきた。このノウハウを地域内の新たな物流整備に活用し、幹線輸送や高機能倉庫と合わせれば、インドの巨大な国内消費市場と南アジアの国々や日本をつなぐ新たなロジスティクスの構築の実現にも、大いに役立つと期待されている。

■物流業者に求められる変化への対応力

地域営業開発室(タイ分室)
次長 池田 秀 氏地域営業開発室(タイ分室)
次長 池田 秀 氏

今後の展開について、池田氏は次のように語る。「弊社がすでに進出したカンボジアやバングラデシュなどには、大きな可能性が秘められています。現在、進出を準備しているミャンマーで、建設が検討されている新港を利用できる日が来れば、将来的には、マラッカ海峡を通らずにヨーロッパに抜ける新しいルートの開拓も期待できます」

最後に、南アジア地域への進出を考えている日系企業は、今後、どのような視点から物流業者を選ぶべきか、池田氏に語ってもらった。

「南アジア地域のロジスティクスを取り巻く外部環境は、今後もどんどん変化するので、進出時に最新だった調達・販売物流網も急速に陳腐化します。また、各国の通関レギュレーションなど、法制度の変化や、インフラの整備に伴う、輸送モードの見直しなど、お客様自身での対応していくことは困難を極めます。それらの変化への敏感かつ迅速な対応は、私たちの役目となりますので、お客様に必要なのは、物流業者に“変化への対応力”があるかどうか、しっかりと見極めていただくことでしょう」

南アジア地域には、インフラ整備の遅れなど、不安な要素も多々ある。その半面、発展途上の地域ゆえのビジネスチャンスに富むことも事実だ。南アジアを面で捉えるロジスティクスは、日系企業のASEAN地域やインドにおけるサプライチェーンの構築および販売市場の拡充に対する大きな支えとなり、近い将来、日本の経済を刺激する起爆剤となるであろう。

[ 2012/7/9 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/topics/index.aspx?n=MMBIb4000002072012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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