新興国市場での成功を阻むマネジメントの課題とは

日本企業が新興国市場で業績を上げるためには、人材マネジメントや現地法人へのガバナンスなど、マネジメントの仕組みから改善すべき部分が多い。これらの課題を考える視点を、前回に続き日本アイ・ビー・エム 戦略コンサルティンググループのリーダーである池田和明氏に聞いた。

■次のステージでの「グローバル化」に取り組む日本企業

 「日本企業は、次のステージのグローバル化に取り組もうとしています。それは、今までの取り組みとは全く違います」と日本アイ・ビー・エム 戦略コンサルティング パートナーの池田和明氏は、今起きている変化を指摘する。

同社は2年に一度、世界のCEOに対面インタビューを実施し、事業環境や経営課題に関する考えについて「CEO Study」というレポートにまとめてきた。今年5月に発表された「CEO Study 2012」は、日本のCEO175人を含む、世界64カ国の1709人のCEOにインタビューした結果に基づいている。

今回のレポートで顕著だったのは、世界のCEOの「テクノロジー」への関心の高まりだ。調査開始の2004年から継続している“今後3~5年間を視野に入れて、自社に最も大きな影響を与える外部要因”を5つ選ぶ質問では、2004年に6位だった「テクノロジー」が今年は1位となり、71%ものCEOが選択している。

その中で日本や韓国のCEOが強く関心を持っているは「グローバル化」であり、両国とも70%のCEOがこれを選択している。「世界のCEOの中では、グローバル化に対する関心は6位にすぎません。欧米企業ではすでに当たり前のことなのでしょう。2年前の調査でも同じような結果でした」と池田氏は語る。

しかし、関心の順位は2年前と同じでも、「グローバル化の意味するところは変わっている」と池田氏は見ている。「これまでの日本企業のグローバル化は、いわゆる加工貿易型のグローバル化でした。原材料を輸入し、日本国内で付加価値を付けて、欧米に輸出するというモデルです。経済成長に伴う人件費の上昇と1980年代以降の円高の影響で、付加価値の低い工程をアジア諸国に移管してきた経緯はありました。それでも、バリューチェーンにおける高付加価値機能を国内に置くことで、2000年代に入っても加工貿易モデルの基本形が維持されてきました。それが今、大きく変わろうとしているのです」(池田氏)。

■「グローバル化」のモデルが変わる

リーマンショック以降、そして東日本大震災以降は、主要市場でバリューチェーン機能をワンセットで持つ、あるいは国際分業の中でも日本への機能立地にこだわらないという動きが強まっている。日本経済への貢献のあり方としては、国内で生産活動を実施することでGDP(国内総生産)増大に貢献することに限らず、海外に投資し事業展開して獲得した利益を日本に還流することでGNI(国民総所得)に貢献できるという考え方が広まっている。

また、人材に関する考え方も大きく変わりつつある。グローバル化の進展によって、日本人が今までのように海外に出ていくことは当然として、海外拠点のリーダーには外国人を起用し、日本の本社や拠点にも優れた外国人を招く。そうすることで日本人に刺激を与えて、日本の人材力を向上させるという考え方が一般化している。「これを事業投資と人材循環モデルと呼んでいます」と池田氏。

この変化を加速させているのが、新興国の急速な発展である。経済成長を続け、グローバル経済の中で重要な位置を占めるようになったのに伴い、人々の生活は豊かになり、教育レベルも高まり、優秀な人材も輩出している。新興国は、市場としてだけではなく、拠点の立地先そして人材の調達先として重要な地域になっている。池田氏は「あと3年もすると『新興国』という言葉は聞かれなくなり、現在の新興国のほとんどが主要国と認識されているでしょう」という。

日本のCEOの考え方も大きく変わっている。「これら2つの取り組みが、ひいては日本そして日本人の豊かさにつながるという考え方に共鳴されるCEOが多く、この考え方でグローバリゼーションを進める企業が、製造業、サービス業などの業種を問わず増えています」と池田氏はいう。

前述した「CEO Study 2012」では、“今後3~5年間、CEOとして成功するために重要だと考える資質は何ですか”という問いに対して、日本のCEOは、「グローバル思考」や「多様性を受け入れる能力」を上位に挙げている。

■人材マネジメントと本社の情報力が課題に

こうした変化は企業活動のいろいろな側面で課題を提起している。例えば、人材マネジメント。人材循環モデルを目指すとしても、グローバルで活躍できる日本人の人材が増えていない一方で、海外の人材を活用することもできていない。日本の本社で外国人が重要なポストに就く例はまれである。その結果、新興国の優秀な人材は、日本企業ではなく米国の企業に就職してしまう。よく聞く話である。

「多くの日本企業では、世界の地域ごとに人事制度がバラバラです。職種や等級の定義、目標設定と評価制度、人材育成プログラムが、地域によって異なる。これでは人材循環は実現できません。さらに言えば、どのような人材がどの地域に何人いるかも把握されていません。これは人材マネジメントの基礎にかかわることです。事業が同じであれば職種や等級の定義を共通化し、世界中の自社の人材について『見える化』する必要があります」と池田氏は指摘する。

また、グローバルに戦線が広がれば、不確実性も拡大する。欧州危機が中国経済に影響するように、いまやある地域の変化は、ただちに世界に波及する。「本社は、世界中の市場で何が起きているのか、自社の業績はどうなっているかを、すぐに把握して、手を打たなければなりません。しかし本社に知らせがもたらされるタイミングが遅く、対応も後手に回る傾向にあります」。池田氏はこう指摘し、本社の情報力向上の必要性を説く。

本社のガバナンスにも課題がある。現地の市場に適応したオペレーションを行うことは重要であるが、その半面、機能の複雑化や重複による非効率という弊害をもたらす。それを解消するためには、市場適応とは直接関係しない、いわゆる間接機能の標準化と統合化を推進する必要がある。経理、人事処理、ITなどがこれに当たる。これができていれば、新興市場に参入する際にも、すばやくシェアードセンターから間接機能のオペレーションを提供できる。「本当に多くの日本企業で見受けられるのが、本社が間接機能の標準化と統合を推進しようとしても、現地法人の反発にあって実現できないという状況です」と池田氏。100%出資の現地法人であっても、このようにガバナンスが効いていないケースは多いという。

「ガバナンスが効かない最大の理由は、情報の非対称性にあります。現地法人は現地の状況が分かっていますが、本社はよく分かっていません。これでは本社が何を言っても、言い返されてしまうのは当然です。情報力がないことは、影響力がないのと同じなのです」と池田氏は、ここでも本社の情報力が大きな課題だと指摘する。

IBMでも、以前は欧州や日本などの各国法人は独自の運営を行っていた。しかし、この10年ほどの間に、本社主導の下、グローバルでの間接機能の統合や、人材の再配置を進めてきた。その本社の影響力を支えているのが情報力だという。たとえば、各国の市場調査部門の調査結果は本社に直接レポーティングされるし、KPIや財務業績はグローバル共通のシステムによって完全に可視化されている。「ガバナンスは、権限の設定といったハードな側面だけでは機能しません。それに情報力というソフトを加える必要があります。私はこれをスマートガバナンスと呼んでいます」と池田氏。本社の情報力を向上させるスマートガバナンスの実現を多くの日本企業に提唱しているという。

[ 2012/6/26 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/topics/index.aspx?n=MMBIb4000025062012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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