顧客に関する深い洞察と変化への迅速な適応が、成功の鍵

日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティンググループリーダーパートナー 池田 和明 氏日本アイ・ビー・エム株式
会社 グローバル・ビジネス・
サービス事業 戦略コンサル
ティンググループリーダー
パートナー 池田 和明 氏

世界の生産基地と考えられがちだった新興国が大きく変貌している。生産拠点としての魅力を拡大しつつ、一大消費マーケットへの成長を加速中なのだ。しかも、変化のスピードは日本の常識よりはるかに速い。多様な特性を持った顧客が存在する新興国市場に日系企業はどのように接していけばいいのか、日本アイ・ビー・エム 戦略コンサルティンググループのリーダーである池田和明氏に聞いた。

■スピード感のズレが存在感を低下させてきた

「新興国市場は急拡大を続けてきましたが、中身の変化も急激です。大量に出現した中産階級の人々、その嗜好や行動特性もどんどん変化しています。また現地の企業も進化しています。その変化のスピードは我々の感覚よりもはるかに速いのです」と日本アイ・ビー・エム 戦略コンサルティンググループのリーダー、池田和明氏は指摘する。

すでに成熟している日本市場でのスピード感は、新興国市場では通用しない。2、3年前は“価格第一”だったはずが、今では“質の良いもの”を求め、さらに“自分にあったもの”を求めるようになる。そこでは市場の変化に対する敏感さが求められる。日本企業はどこかで新興国市場の変化を甘く見てきたかもしれない。

変化は産業財の市場でも起きている。「日本の機械や部品のメーカーは、日系製造業の海外、特にアジアでの生産拠点の展開に合わせて、グローバル化を進めてきました。その中で、新興市場で興隆しつつある現地製造業への浸透が遅れています。そこで使われている装置は、中韓製、あるいはヨーロッパ企業のものが多く、日本企業の存在感は相当小さい」と池田氏。

■顧客に関する深い洞察と、変化への対応スピードが重視されている

B to CでもB to Bでも共通して重要なのは、“顧客をいかに理解するのか”である。当たり前のことだが、その実、困難であり、永遠の課題ともいえる。

「IBMでは2年に一度、『IBM Global CEO Study』という調査レポートを発表しています。世界中のCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)に対面インタビューを実施し、その結果をまとめたものです。2012年版では世界で1709人、日本で175人のCEOに参加いただきました。その調査結果では、今後重点的に投資するテーマとして『顧客に関する洞察の獲得』が第1に挙げられています」と池田氏。調査では73%のCEOが「データから顧客に関する有意義な洞察を得る、その能力を獲得するために、大きな投資をしようとしている」という結果が報告されている。そしてCEOが考える顧客満足度向上のための取り組みのトップ2は、「顧客のニーズの理解」と、「顧客の変化へのレスポンスタイムの短縮」である。さらに、高業績企業ほど、有用なデータにアクセスでき、データから有意義な洞察を引き出し、洞察を素早くアクションに結びつけている、という調査結果が出ている。

ただし、新興国市場では顧客の変化のスピードが、日本の常識よりはるかに速い。また新興国といっても幅広い。中国やインド一国とってみても地理的な広がりも大きく、多種多様な特性を持った顧客が存在する。その中で、どうやって顧客を理解し、迅速に対応すればよいのだろうか。

■「テクノロジー」を活用して、カバレッジ、スピード、効率性のトレードオフを打ち破る

「新興国市場で、顧客を理解し、その変化に迅速に対応するため、そして市場機会を十分にカバーできる広がりをもった展開をするためには、テクノロジーの活用が鍵になります」と池田氏。

まずB to Cの企業について考えてみる。消費者を理解するために、現地に行って、極端に言えば生活を共にして、消費者の生活や行動様式を研究して、製品開発などに生かすこと。これはエスノグラフィーとよばれ、文化人類学におけるフィールドワークの手法として発達したものである。日本企業でも、新興国の消費者の調査のために、調査会社の情報やアンケートだけに頼るのではなく、エスノグラフィー使った調査が積極的に取り入れてられている。このときに問題となるのは、カバレッジである。消費者の数は膨大であり、かつ同じ国でも地域による違いは大きい。カバレッジを広げ、かつ急激な変化についていくことを、従来どおりの方法で両立させようとすると、コストと時間がいくらあっても足りないのである。

「BRICsをはじめとした新興国でもモバイル・デバイスの普及が進み、多くの人々がソーシャルメディアを利用しています。ソーシャルメディアは一人ひとりが生活者として参加する場であり、楽しいことや自慢ができる話題が交換される場です。ソーシャルメディアの中での人々のコメントや行動様式を分析することで消費者を理解する、『デジタル・エスノグラフィー』とでも呼ぶべきアプローチが可能になっています。マーケティング用の情報を改めて収集すると構えられてしまいます。コミュニティの中で語られていることからこそ、本当の考えを知ることができるのです」と池田氏。IBMでは、新興国のIBM社員でコミュニティを作り、マーケティングの実証実験を行うことも可能だと言う。

新興国企業が自国で既に一歩進んだ取り組みを始めているところがある。たとえば、ブラジル第2のデパートであるMagazine Luiza(マガジン・ルイーザ)。近年同社は、ソーシャルメディア上のコミュニティを展開している。ソーシャルメディア上で展開する「マガジン・ボセ(あなたのお店)」に入ると、顧客は自分のお気に入りの商品を配置して、カスタマイズされた店舗トップページを作れる。さらにその情報をフェイスブックなどを通じて共有し、ソーシャルストアの「オーナー」になれる。ストアオーナーは、そのソーシャルストアで誰かが商品を購入すると、コミッションがもらえる。商品の出荷と代金の回収はマガジン・ルイーザが行う。すでに2万を超えるソーシャルストアが開店し、訪問者の平均購買率は同社のオンラインストアより高いという。

次にB to Bの企業ではどうか。日本企業の多くが、新興国市場の現地企業に十分に浸透できていない原因は製品の売り方にある。池田氏は「製造装置の販売は規格化された世界ではありません。顧客から引き合いを得て、技術情報を提供し、要件を聞いて、仕様を決めて提案し、製造して、現地で調整して、納品します。そしてアフターサービスも必要です。日本企業は、そのプロセスでの顧客対応をすべて“人力”で対応しようとしています。そこに問題があります」という。

新興国市場は広く、一つひとつの工場の規模は大きいものばかりではない。それを全て人力でカバーしようとすれば、人件費がかかりすぎて割に合わない。しかも、技術がわかって、世界を相手に営業できる人材は限られる。結果としてカバレッジは広がらない。

「最近では、顧客のエンジニアや購買担当者を対象にした登録制ウェブサイト上で技術情報を提供し、興味を持った顧客担当者が自分で簡単なコンフィグレーション(要件設定)や、見積依頼ができる機能を提供して成功している例があります。ある程度、現地企業の要望がわかった上で、コールセンターから電話をする、営業が現地に出向く、という構造になっています」と池田氏。また、こうした“軽く入れる仕組み”は、スピーディーな新興国市場への進出にも有効であり、日本企業が遅れている部分でもある。

前述の『IBM Global CEO Study』では、毎回、今後3年から5年の間に自社に影響を与える外部要因について質問している。テクノロジーという回答は、2004年調査では6位だったが、調査ごとに順位を上げてきた。そして今回調査では、CEOの73%がテクノロジーと回答し、はじめてトップに立ったという。「テクノロジーに対する経営者の方々の関心の高さには驚きました。テクノロジーは、製品やサービスに組み込まれるだけではありません。企業のビジネスプロセスを革新し、顧客と企業との関係性を変えようとしています」と池田氏。

セグメンテーションによって顧客を「かたまり」ではなく、個のレベルで理解して、迅速に対応することの重要性については、10年以上前から議論されてきたが、実現するのは難しかった。しかし今、テクノロジーの進化がそれを可能にしつつある。現在のソーシャル、モバイルテクノロジーの普及は新興国でも同様である。新興国市場に浸透し、その急激な変化の中で成長し続けるためにも、テクノロジーをてこにしたビジネスプロセスやマーケティング活動の革新に取り組むべきではないだろうか。

[ 2012/6/15 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/topics/index.aspx?n=MMBIb4000015062012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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