新興国進出に当たって求められる「グローバルな経営管理の確立」

日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティング パートナー松尾 美枝 氏日本アイ・ビー・エム株式
会社 グローバル・ビジネス・
サービス事業 戦略コンサル
ティング パートナー
松尾 美枝 氏

日本企業は世界の様々な拠点でビジネスを展開してきたが、地域最適化を是としたこれまでの取り組みはほころびを見せ始めている。一方で新興国に目を転じると、想像を超えるスピードで変化を続け、成長している。これからのグローバルビジネスにおける日本企業のガバナンスはどうあるべきなのか――。日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティング パートナーの松尾美枝氏に聞いた。

■“数字こそ共通言語”という思想で、経営管理の基準を統一

「CFOへのインタビュー調査(IBM Global CFO Study)でも、グローバル化への関心や危機意識が高まっていることが分かります。しかし、製造や販売など事業の一部を海外で展開する輸出型や、海外子会社任せのミニ本社の複製型のモデルでは、グローバルにガバナンスを強化することはできません。グローバルでひとつであることが大事なんです」と日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティング パートナーの松尾美枝氏は、日本企業の課題を指摘する。

経理・財務の変革を進めるポイントは、データの定義を統一し、同じシステムを使い、同じプロセスでデータを見る、といった業務効率化のための仕組みの整備をタテ軸と捉え、ビジネス洞察力を高めるヨコ軸とかけ合わせることにある。しかし、海外子会社も含めたヨコ軸の統一ができていないケースが多い。

「国内でタテ軸(業務効率化のための仕組みの整備)とヨコ軸(ビジネス洞察力の強化)の高度化が進んでいる企業でも、海外では現地法人任せになってしまいがちです。これでは業務の効率も悪く、グローバルでビジネスを洞察することもできません。後でタテ軸を合わせるのは大変困難ですから、あらかじめタテ軸をそろえて新興国に進出するのが理想です」と松尾氏は語る。

しかし、現実は異なる。すでに海外展開している企業は多く、本格的な海外展開にあたっては、変革に向けた取り組みが求められる。当然、そのためには経営トップの強固な意思決定と本社サイドの強いリーダシップが不可欠である。IBMの場合でも、1993年にルイス・ガースナーが会長に就任するまでは、タテ軸はそろっていなかった。それを変えさせたのはガースナー会長の決断だった。

「当時は、世界各国から財務のデータを集めるのに3週間かかっていました。各国が独自に財務管理を行い、それぞれのデータを変換して見る、といった多国籍型のモデルだったからです。タテ軸がグローバルに統一された今は、4日くらいで集計できるようになりました。タテ軸をそろえるための業務・データの標準化に、何年もかかっています」(松尾氏)。

こうした変革の大前提にあるのが、“数字こそ共通言語”という考え方だ。共通言語が定義されることで、初めてコミュニケーションが始まる。「この考え方を徹底したのがガースナーでした。思想のようなものと言えるかも知れません」と松尾氏。業績の評価基準が明確になることで、管理業務は効率化され、権限委譲も進められる。キャリアアップの評価基準にもなり、従業員のモチベーションも向上する。

■3層構造の組織モデルに移行して、グローバルなガバナンスを強化

グローバルでデータや業務プロセスを標準化することで、オペレーションも当然変わってくる。IBMのケースでも、決算にかかる日数が大幅に短縮されただけでなく、会計プロセスが統一され、それにかかるコストも大幅に削減された。67カ所あった会計システムセンターは、6カ所に統合され、日本IBMの米国基準での決算業務は、2007年にクアラルンプールに移管されている。

国ごとに会計基準が違い、ドメスティックな色彩が強かった経理財務部門は、どうグローバル化が進んでいくのか。松尾氏は「グローバルでのガバナンスを強化し、企業全体にフォーカスした役割を拡大するために、経理財務部門を3層に分ける動きが目立ってきています」と語る。

具体的には、収益性を拡大するためのビジネスユニットの第1層、リスクと業績のバランスをとるためのマネジメントを行うCFOの第2層、そしてグループ企業に均質でローコストなサービスを提供するシェアードサービスなどの第3層。この3層構造で経理財務部門全体が構成される。第3層はアウトソーシングを併用するケースも多い。

業務の標準化を進めることで、シェアードサービスやアウトソーシングを活用して第3層の部分を成立させて、コスト負担や人材配置を軽減する。この変革によって、経営管理が分かっている人材を営業本部や製造本部など第1層であるビジネスユニットに配置し、事業部門に対する財務会計面からの支援を強化。その全体を中間に位置する第2層であるCFOが全体をマネジメントするという組織モデルだ。グローバルレベルでオペレーションスキルの集約化を図り、最適な場所から各国の子会社にサービスを提供することになる。

このモデルの狙いについて松尾氏は「第3層の組織を人件費の安い新興国に集中させることで、コストメリットも期待できますが、それ以上に、業務の標準化を進めてこうした構造に移行することで、経理財務部門としての付加価値を高め、企業全体の収益性の拡大につなげることが狙いです。第3層がバラバラになるリスクを抑えるために、費用がかさんでもアウトソーシングを利用したいというケースも増えています」と話す。

■どうやって経営管理の人材を育て、何を基準に統一を図っていくのか

新興国も含めたグローバライゼーションを進めるうえで、求められる3層構造の組織モデルでは、どんな人材戦略が求められるのか。「3つの層のすべてで明確な評価基準を設けて、グロ-バルに優秀な人材を育成する必要があります。そのためには、日本人だけでなく、外国人に対してもキャリアパスを提示しなければなりません。海外子会社の優秀な人材がやめていく原因の多くは、人事評価の曖昧さにあるのです」と松尾氏は指摘する。

経理財務部門に求められるのは、経営管理のスキルだ。これまで日本企業では、幹部候補生として採用した後に、こうしたスキルを身につけさせるケースが多い。しかし、松尾氏は「本来はアカウンティングやファイナンスについての素養を持っている人を経理財務部門に配属すべき。基礎があってはじめてリーダシップを発揮することができるはずです」と語る。

グローバルに成功している企業の多くは、国籍に関係なくスキルのある人を登用している。それは経理財務部門でも同じだ。日本企業のリーダーが必ずしもすべて日本人である必要はない。不確実な時代にあってグローバルな経営管理の必要性は高まっている。それだけに国籍にこだわらないスキル優先の人材活用が求められる。それが優秀な人材を集めることにもつながる。

そのうえで松尾氏は経営管理の基準の確立の必要性を強調する。「過去の業績を分析するのではなく、将来を見通しながら経営する“ヘッドライト・オペレーション”を実現するには、グローバルレベルでの業績の見える化が必要です」と松尾氏。問題はグローバルに展開するには、日本の基準は独自性が強すぎるということだ。海外を含めて基準を統一するには、IFRSや米国基準を活用するのが妥当だろう。

「勘定科目の定義やシステムなど、グローバルで統一した基準を設けて標準化にまい進しないと、永遠にタテ軸はそろいません。企業としてのリスクをマネジメントするためにも、早急に取り組むべきです」と松尾氏は強調する。同社では、自らの経験を通して蓄積したグローバル経営管理モデルや業務のアウトソースサービスなどを提供している。こうしたノウハウを活用するのも、前に進むためのひとつの方法かもしれない。

重要なことは、数字という共通言語による経営管理を徹底するために、できるだけ早くタテ軸をそろえる動きを加速させ、グローバルオペレーションへの備えを身に着けることだ。

[ 2012/6/8 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/topics/index.aspx?n=MMBIb4000008062012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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