インド共和国~成長する最後の巨大新興国

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
国際事業本部 グローバルコンサルティング部チーフコンサルタント
東條 恵明 氏三菱UFJリサーチ&コンサ
ルティング株式会社
国際事業本部 グローバ
ルコンサルティング部
チーフコンサルタント
東條 恵明 氏

南アジア最大の国土と人口を持つ大国インド。国際通貨基金(IMF)の見通しによると、2011年の米ドル建ての名目国内総生産(GDP)は世界10位の規模だが、意外にも日本企業の進出数は多くない。英国統治時代の流れをくむ文化や志向、カースト制度の影響が残る独自の生活観など、アジアにあってアジアでない国柄が日本人にとって縁遠いものであったことは否めない。だが今後、確実に伸びていく人口と経済成長力、中東・アフリカ貿易のゲートウェイにも位置づけられるポジショニングなどを背景に、日本企業にとって重要な存在となるはずである。

■遅々として発展する巨大民主主義国家

「遅々として進んでいる」――。インドの発展状況を表現すると、そんな言葉になるのではないでしょうか。

日本の約9倍に及ぶ国土面積、12億を超える人口を抱え、様々な人種・宗教・文化・言語を有するインドには非常に大きな多様性が存在します。インドのことを「世界最大の民主主義国家」と言ったりしますが、多様な民意を国家として統一するには困難も多く、時間も必要です。その典型例が小売業に関する外資規制の緩和でしょう。

これまで総合小売業は外資参入が認められず、単一ブランド小売業に限って、外資は51%までの出資比率が認められていました。

増えゆく中間層を対象として、日本に限らず外資が消費国としてのインドに大きな期待を寄せています。世界最大手であるウォルマート・ストアーズなどの大手総合小売業は、100%出資が認められるC&C(キャッシュ&キャリー)業態で既に参入を果たしていますが、以前から小売りの市場開放を政府に働きかけていました。

インド政府としても、外資の力を活用して国内のサプライチェーンを効率化・高度化させたいという思惑があります。現在でも農産物を産地から大都市圏に運ぶまで30~40%のロスが出るとされています。主要幹線道路は整備されつつありますが、一般道に1本入ると舗装状態も悪く、新車を北部から南部に運ぶと中古車になるという笑えないジョークがあるほどです。

それだけに、2011年11月24日に外資規制緩和の閣議決定がなされたことは、長年の課題解決に向けた画期的な決断と受け止められました。

しかし閣議決定直後から、国内中小零細小売業への影響を懸念する野党の猛反発にあい、総合小売業の外資開放はすぐに棚上げとなりました。単一ブランド小売業については条件付きで100%まで外資に開放することが12年1月10日に発表されましたが、外資の比率が51%を超える場合には、製品売り上げの3割を国内の小規模産業、村落などから調達しなければならないとされました。ルイ・ヴィトンやナイキなどのインターナショナルブランドが現地調達比率3割の条件を満たし得るのか大いに疑問ですが、票田としての影響力を持つ国内1000万店の中小・零細小売業を軽視できない既存政党にとって、小売業の外資解禁はそれほど政治判断が難しいのです。

同じ人口規模でも共産党一党支配で意思決定が早い中国とは対極的です。インドの経済発展は今後も一進一退を繰り返しながら進んでいくものと思われます。

■都市の若年層にみられるライフスタイルの変化

ただし、都市化の進展とともに都市住民のライフスタイルは確実に変化を見せています。

ボリウッド(映画産業)で有名な商業都市ムンバイは、ナビムンバイやパンベル、ビワンディなど周辺都市を含むと人口2070万人の巨大都市圏です。以前から流行の発信地とみなされ、ハイストリートフェニックスやイノービットモールなどのショッピングモールもありますが、賃料水準は極めて高く、本社を他都市に移転する企業も最近は多く見られます。西方が海に面しているため開発余地にも制約があり、ここ数年、ムンバイ中心部の街並みはあまり大きな変化が見られません。

一方、デリー首都圏は近郊のグレーターノイダやグルガオン、ファリダバードなどを含むと2170万人の人口を有し、11年に初めて人口規模でムンバイ都市圏を上回りました。5年前には野良牛が裏通りを闊歩(かっぽ)する光景も見られましたが、10年に開催されたコモンウェルス・ゲームズ(イギリス連邦に所属する53の国と地域が参加して4年ごとに開催される総合競技大会)にあわせて街並みは整備され、首都の風格を漂わせるまでになりました。インド初のハイエンドショッピングモールであるDLFエンポリオをはじめ多数のショッピングモールを有し、「高額消費はムンバイよりもデリーの方が堅調」との声も地元では聞かれます。

ニューデリーのハイエンド・ショッピングモール DLF Emporio
(出所)現地にてMURC撮影

ニューデリーのハイエンド・ショッピングモール DLF Emporio
(出所)現地にてMURC撮影

次いで大都市圏と言えば1410万人の人口を有する東部の西ベンガル州コルカタですが、平均所得水準は相対的に低く、消費パワーという面ではやや魅力に欠けると言えるでしょう。むしろ、IT産業の発達などを背景に、ハイデラバードを超える規模にまで成長した南部カルナタカ州のバンガロール(850万人)の方が消費市場としての魅力度は高いでしょう。ITの街として有名でTシャツ、ジーンズ姿の若者もいますが、少し郊外に出ると、まだ伝統文化の影響が色濃く残る印象があります。

こうした都市部住民は、特に若年世代でライフスタイルが大きく変化してきています。

全般的にみて35~40歳くらいを境に上の世代は、いまだ堅実な消費行動をとり、伝統的な衣食を好む傾向にあります。対して都市部の若い世代はアメリカの「forever21(フォーエバー21)」やスペインの「ZARA(ザラ)」などの欧米ファッションブランドに関心があり、ピザやハンバーガーなどのファストフード店にも出かけます。

ニューデリーのショッピングモールでゲームに興じる若者
(出所)現地にてMURC撮影
ニューデリーのショッピングモールでゲームに興じる若者
(出所)現地にてMURC撮影

日系企業にとっては人口規模の大きさがインドの魅力のひとつですが、インドでマーケティングを行う際は、日本のように均質性の高い国民で構成された社会ではないことを前提に、都市や世代、消費水準などの顧客セグメンテーションを明確に意識して取り組む必要があります。

■進出に求められる中長期視点とコミットメント

一人当たりGDPがいまだ2000USドルに満たないインドは大きな将来性を秘めた大新興国ですが、ビジネスを進める上ではそれなりの覚悟が必要です。近年、日系企業が注力しているASEANの延長線でインドをとらえると戸惑うことが多いはずです。

インドは親日国と言われます。実際、反日ではないのですが、ASEANの多くの国に見られる親日的な感情はそれほどありません。そもそも彼らの視線の先はアジアよりもヨーロッパやアメリカに向いていると捉えると理解しやすいと思います。

ワーカーレベルの労働者の給与水準も、ASEANの新興国と比較すると必ずしも低くはありません。極端な例ですが、米マサチューセッツ工科大学をしのぐといわれるインド工科大学の卒業生は、数年前で既に初任給が5万USドルを超えていました。マネジメント層の人材も不足がちです。せっかく雇用してもより高い報酬やポストを求めて転職を重ねるケースが多いため、定着率を上げることが現地の人材戦略の重要な課題になります。

現地進出にあたって、日系企業のパートナー候補になりそうなインドの大手財閥企業と接する機会もありますが、マネジメント層の多くは非常にロジカルで、ファンドマネジャーのように収益性にもシビアです。もちろん相互の信頼関係を大事にしますが、情緒的な議論やビジネスプランは通用しないと思うべきでしょう。

何だかインドに進出してはいけないと申し上げているようですが、そうではありません。

これからの中長期的な世界経済の動向を見据えると、インドが重要な市場であることは間違いありません。むしろ、文化の異なる巨大なマーケットに食い込むには相当な覚悟とスピード、組織力が必要だと申し上げたいのです。

インドでは中途半端な投資はなじみません。人材もエース級を投入するくらいの取り組みが求められます。「インド進出に社運をかけてはいけない、しかし中途半端に取り組むと弾き返されてしまう」と現地の識者が指摘していましたが、まったく同感です。

まだ自国市場優先の構えを見せるインド企業が多数ですが、相応の企業体力をつけた後には、欧米に加えASEANや中東・アフリカ圏に進出してくることが想定されます。

多くの日系企業の目下の関心は中国やASEAN諸国にありますが、今のうちからインドにもくさびを打つことが、結果的に中国・ASEAN圏での事業基盤維持や防衛にもつながると考えられます。

先般、トヨタ自動車のインド子会社トヨタ・キルロスカ・モーターがインドでのみ生産する新興国戦略車「エティオス」の南アフリカ向け輸出を開始しました。中東やアフリカへの本格進出も想定した場合、インドがその地理的な位置づけから、重要な役割を担える可能性も考えられます。

日本の技術力が生きるインド国内のビジネスチャンスは幅広い分野で想定されますが、中長期的かつ巨視的な視点と相応の覚悟を持って取り組んでいただけたらと思います。

[ 2012/4/24 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/business/index.aspx?n=MMBIb3000024042012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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