官民オール・ジャパンで新市場を切り開け!【下】 組織・業種・部門の壁を超えた ニーズ重視のモノづくり戦略

株式会社 国際開発ジャーナル社編集次長 玉懸光枝氏株式会社 国際開発
ジャーナル社
編集次長 玉懸光枝氏

新興国や開発途上国の市場開拓を通じて、日本企業に様々な変化が生まれている。それは、時に、製品の開発・販売・維持管理の方法、部署・組織のあり方など、従来の「常識」を大きく覆す変革につながるプロセスであり、その先に広がる巨大な新市場の開拓に乗り出すためには欠かせないステップとも言える。パラダイム転換を恐れず、その一歩を踏み出した企業の取り組みを紹介しよう。

■「新成長戦略」と進む企業連携

この連載の【上】では、新興国や途上国における社会課題の解決に民間の力を取り入れるため、あるいは逆に、民間の海外進出を後押しするため、民間ビジネスのスタートアップを開発協力(途上国援助)の文脈で公的に支援する新制度が相次いで立ち上げられていることを紹介した。

一方、民間企業側も、少子高齢化による国内市場の縮小や長引く景気低迷など、閉塞感の漂う日本に見切りをつけるかのように、これらの国々に活路を見出そうとする動きが様々な業種で見られる。そうした流れを加速させたのが、政府が2010年6月に決定した「新成長戦略」である。そこでは、都市鉄道や高速道路、港湾、発電所など大型インフラの建設や、既存施設の維持管理の需要が高いアジアを中心とした新興国に対して、個々の設備や技術を受注・納入するだけでなく、インフラ事業の設計・建設から完成後の管理運営やメンテナンスを含めた事業権を丸ごと確保することを目指す「パッケージ型インフラ輸出」が打ち出された。

JEXWAYによるベトナム高速道路事業の調査。ハノイ市内の幹線道路は二輪車の走行が多い(左)

JEXWAYによるベトナム高速道路事業の調査。ハノイ
市内の幹線道路は二輪車の走行が多い(左)

これを受けて、2011年は企業の壁を越えた連携が進展した。例えば、同年9月にはNEXCO3社と首都、阪神の高速道路5社が共同出資した「日本高速道路インターナショナル(JEXWAY)」が設立された。5社は2005年秋の道路公団からの民営化以降、例えば中日本がベトナム・ハノイに、東日本がインド・ニューデリーに、首都高がタイ・バンコクに、そして西日本と首都高がインドネシア・ジャカルタにそれぞれ駐在員事務所を開設しているほか、阪神高速と首都高速がタイ高速道路会社(EXAT)と協定を結んで現地情報を収集するなど、これまでも積極的に海外展開を進めてきた。

JEXWAYは今後、都市高速道路に関するノウハウや人材、情報、技術、資金など、各社が有する資源を集約すると同時に、国内外の関係機関や商社、建設業者、開発コンサルタントから相談を受けたり、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、日本政策投資銀行(DBJ)に公的資金を申請したりする際の一元的な窓口機能を担う。排水性舗装や耐震設計などの安全対策のほか、ETC料金徴収システムに代表される渋滞緩和策や維持管理技術など、各方面の協力体制と様々な分野の技術が結集したシステムとして、日本の高速道路技術を売り込むことが期待される。

■JR東日本など鉄道7社、海外向けコンサル会社を設立

鉄道分野では、同じ2011年11月、JR東日本など鉄道7社が海外向けに鉄道コンサルティングを行う「日本コンサルタンツ」を設立した。本格的な営業開始を4月1日に控えている同社は、イギリスやフランスなど欧州基準に押されがちな新興国の鉄道市場に、基準の策定や仕様書の作成段階から入り込み、いわゆる“上流”を押さえることによって、日本企業の受注につなげる重要な役割が期待されている。

水分野でもこの1~2年、三菱商事などが買収を決めたオーストラリアの水道事業会社に対して東京都水道局がコンサルティングを行ったり、北九州市水道局が水処理大手のメタウォーターと提携し、カンボジアのシェムリアップやベトナムのハイフォンで水道管理の受注に向けて動き出すなど、自治体と民間企業がタイアップして海外市場の開拓に乗り出す例が相次いでいる。

また、これまでODA案件を多く手掛けてきた開発コンサルティング企業も、政府レベルから村落のコミュニティーに至る重層的なアクセスを生かして間口を広げようとしている。建設技術研究所、国際航業、長大など6社は今年1月31日、共同出資による新会社「インフラックス」を設立することで合意した。新会社は、最新技術を駆使してエネルギー効率を高め、省資源化を徹底した環境配慮型の街づくりを目指すスマートシティ分野など、わが国の産業界が海外で取り組むジャパン・パッケージの大型開発事業に積極的に参画し、開発コンサルタントが活躍する新たな市場開拓を目指すという。

このように、これまで施設や設備を「建てて終わり」「売って終わり」だった企業の海外戦略は、今や企業や業種の壁を超え、「設計から事業化まで」長期的に見据えた共同展開へと大きく舵を切っている。

■新興国市場の開拓に適した人材育成も

一方、日本を「モノ作り立国」たらしめる製造業界でも大きな変化が生まれている。これまで日本では、優秀なエンジニアたちが次々に市場に送り込むハイスペックな新製品によって需要が絶えず喚起され、それが更なる技術改良へとつながっていった。この製品開発スタイルこそが、今日までの日本の地位と信用を築き上げてきたことは間違いない。極端に言えば、企業が売りたいものや売れるはずだと目論んだもの、あるいはエンジニアが作りたいものを作りさえすれば、それがそのまま売り上げにつながったのである。ただ、新興国に本格的に進出するには、その国のマーケットや消費者により向き合う必要がある。

例えばセイコーエプソンでは、日々、顧客に向き合い、市場の動向に敏感な営業部門の中で芽生えた改革の機運が、少しずつ社内に広がりつつある。同社は国連が国際的なCSRイニシアティブとして掲げる「グローバル・コンパクト」に署名する国内の企業や団体によって構成される「グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク」に参加し、BOPビジネスやソーシャルビジネスをテーマにした分科会に社員を送り込み、組織を超えた相互学習や啓発を進めている。

■途上国に飛び込むエンジニア

太陽光を活用した調理器具を開発している受け入れ団体のスタッフと話すパナソニックのエンジニア(右)太陽光を活用した調理器具を開発している受け入れ
団体のスタッフと話すパナソニックのエンジニア(右)

新事業を模索し、開発途上国に飛び込む企業も増えている。パナソニックは2012年2月初め、30代前半のエンジニアをベトナム中部のダナンに派遣した。彼らは、太陽光を利用した調理器具を開発・販売する現地の組織で1カ月間、共に働き経営支援を行いながら、現地の人々の暮らしぶりやニーズの把握に努め、製品開発に生かそうとしている。パナソニックとこの団体を結び付けたのは、昨年5月に設立されたNPO法人クロスフィールズだ。

同NPOは、グローバル人材育成や新興国開拓のメニューとして「留職」という新たな概念を提唱し、日本企業の社員を開発途上国や新興国のNPOに派遣するプログラムを運営している。現地での活動をより円滑に進めて効果の最大化を図るために、事前研修は派遣されるエンジニアだけでなく、CSR関連部門や経営企画部門も含めた混成チームを対象に実施。派遣中も定期的にテレビ会議やフェイスブックなどを活用して社内の専門家から意見をもらうなど、現地と社内の情報共有を図りながら一体となって活動を進める。

アイディアコンペティションで選らばれた起業家にヒアリングするリコーの農村滞在メンバーら

アイディアコンペティションで選らばれた起業家にヒアリングするリコーの農村滞在メンバーら

リコーは、現地のニーズ把握と新規事業の開拓に向けて、部署を超えた取り組みを進めている。経営企画・技術開発・商品開発・CSRなど、別の部署で異なる業務に携わっていた若手からベテラン社員が08年、「神風が吹いたように」出会った。以来、定期的に集うようになった彼らは、国際協力NGOの経験があるメンバーのネットワークを生かして、開発途上国の暮らしや社会開発の視点を学びながら、BOPビジネスについて勉強を開始した。

この自主的な活動は、その後、新規事業開発センターとCSR室協働の社内プロジェクトへと発展し、2010年度からは社内公募した社員を交代でインドの農村に派遣している。当初から一貫して掲げているモットーは、開発途上国を「製品を買ってくれる市場」「製品を作ってくれる市場」と捉えず、「対等なパートナーとして双方の持続的事業を開発すること」。そのためにも、まずは現地の人の持続的なビジネスを創出し、同時にリコーのビジネスを創出することを目的に、現地の人々が何(what)に困り、何(what)を求め、リコーが何(what)をもって応えるかという“what”探しにこだわりながらビジネスアイデアを練っている。

現在は現地で開催したビジネスアイデアコンペティションで選んだ起業家のビジネスを複数立ち上げ、支援を検討しているほか、現地に滞在した社員から出されたアイデアをもとに「女性による、女性のためのWomen’s shop」も立ち上げている。

帰国後、通常業務に戻った社員からは、「現地で喜んでもらえる商品を作るためには、まず自分がエンジニアとしての視野を広げることが大切だと痛感した」「BOP市場でも既存の事業でも、すべきことは同じだと確信した。常に市場・お客様の生の声を拾い上げ、何をすべきか、自分の意志として提案していきたい」といった感想が寄せられたほか、送り出した上司からも「目を見張るほどの成長ぶり」と高く評価され、社員教育にも一役買っている。

■新興国新市場を見つめ直し、ビジネスの再構築を

よく引き合いに出される通り、日本よりも人口が少なく国内市場が小さい韓国は、他国に先駆けていちはやく本格的に新興国の開拓を進めてきただけあって、近年、現地のニーズに見事にマッチするユニークな製品を次々と売り出し、圧倒的な存在感を誇るようになった。例えば、韓国LG電子は2004年、「メッカフォン」と呼ばれる携帯電話を開発し、サウジアラビアなどイスラム圏で爆発的に売れた。

この電話には、1日5回の礼拝時間をアラームで知らせてくれるだけでなく、内蔵されたコンパスによってメッカの方角をディスプレイ上に表示してくれる機能が付いている。同社はその後、インドネシアでも鳥インフルエンザ(AI)ウイルスを殺菌する機能を追加したエアコンや、デング熱を媒介する蚊を超音波により退治するエアコンなどを開発し、現地市場で圧倒的な支持を獲得した。こうした同社の企画力の強さの背景には、多くの海外拠点に現地で採用した人材を充て国際化を進めていることが挙げられる。また、サムスン電子は1990年から入社3年目以降の社員を毎年200~300人ずつ世界に派遣し、地域の専門家を積極的に育成している。

かつて日本企業からノウハウを必死に学び、吸収して自国のブランド造りに励んできた韓国企業は、その過程において、こうした独自のアプローチと哲学を生み出してきたと言える。翻って日本は、旺盛な国内需要や欧米などの先進国市場に目を向けがちで、潜在市場ニーズの掘り起こしや新市場の創出に対する取り組みは十分ではなかった。その結果、既存ユーザーへの配慮が生き届いた高機能な商品作りには長けていても、新興国や開発途上国にはなかなか飛び出せずにいる。

ニーズに応えるという「使命感」と、一歩先を行く行動を起こさなければ生き残れないという「危機感」を両輪に、改めて、途上国や新興国などの新市場に挑戦してほしい。

[ 2012/3/16 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/market/index.aspx?n=MMBIb2000013032012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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