官民オール・ジャパンで新市場を切り開け!【上】 ビジネス支援の色合い、再び強めるODA ビジネスのコスト・リスク軽減を実現

株式会社 国際開発ジャーナル社編集次長 玉懸光枝氏株式会社 国際開発
ジャーナル社
編集次長 玉懸光枝氏

日本企業が経済成長著しい新興国・開発途上国を新たな市場として切り開き始めている。新興国は豊富な地下資源や人口増などを背景に、潜在的なマーケットはきわめて大きい。少子高齢化により国内市場が頭打ちとなる中、新興国マーケットの開拓は一部の先進的な企業だけでなく、すべての日本企業に求められているともいえる。一方、民間支援に一時背を向けていた政府開発援助(ODA)の開発協力も、再びビジネスに歩み寄っている。新市場開拓と日本経済の浮揚に向けて大きく舵が切られた「官民連携」の取り組みを追った。

■インド鉄道省に新幹線をアピール

JR東日本の新幹線総合車両センターで定期点検の様子を視察するインド鉄道省幹部たち

JR東日本の新幹線総合車両センターで定期点検の
様子を視察するインド鉄道省幹部たち

2011年12月上旬、インド鉄道省の幹部たちが東京駅を訪れた。彼らは、新幹線が次々とホームに滑り込み、流れるように人々が降り、清掃スタッフが手際よく車内を清掃し、数分後には再び乗客を乗せて発車していく様子に驚嘆し、飽きることなく観察した後、駅構内を視察した。特に彼らが興味を持ったのは、エキナカだ。乗降客が電車を乗り降りするついでに食事やショッピングを楽しみ、駅で時間を過ごしている様子を見て「まるで一つの街のようだ」と驚き、「これだけ多くの人々が思い思いに動いているのに混乱が起きないのはなぜか」などと質問が相次いだという。受け入れに協力したJR東日本は、「百聞は一見に如かず。言葉だけでなく実際に目で見てもらったことで、日本の新幹線システムの安全性や時間厳守のノウハウ、駅を中心とする街づくりのコンセプトを伝えることができた」と話す。

インドは、2011年度連邦鉄道予算案の中で、6路線・総延長3,700km以上におよぶ高速鉄道の建設構想を打ち出した。一躍世界の注目が集まっているが、このうち3路線については、フランス、イギリス、スペインの企業が採算性を検討する予備調査を早々に受注して、調査を開始しているのに対して、日本はようやく1路線の調査の受注が決まったに過ぎない。

今回の来日は、インドが初めて高速鉄道の導入を検討しているタイミングをとらえ、同国にふさわしい技術や運行ノウハウなど、日本の新幹線システムに関する情報を整理し、インド国鉄に知ってもらうことによって日本への信頼を勝ち得ようと計画されたもの。国際協力機構(JICA)が局長ら12人の幹部を研修員という形で約2週間招へいし、海外鉄道技術協力協会(JARTS)やオリエンタルコンサルタンツが中心となって受け入れ先との調整・運営にあたった。

「組織づくりや職員の管理、ルールや規定といったソフト部分のノウハウを実際に見てもらうことによって、“日本は頼りがいがある”と印象付けたい」(JICA)という狙いから、スケジュールには新幹線の整備点検施設や運転士の訓練施設の視察、車両・電機メーカーへの訪問などが組み込まれたうえ、研修終盤には、日本企業とざっくばらんに意見交換を行なう機会を設けて、商社のほか、車両や車輪、信号などのメーカーなど18社約40人が参加した。

その10日後には野田佳彦首相がインドでシン首相と会談し、高速鉄道整備に日本の技術を活用するよう要望。さらに、今年1月中旬には、前田武志国土交通省やJR東日本、JR東海などの官民ミッションもインドを訪れ、国交省とインド鉄道省による次官級の検討委員会を設置することで合意するなど、インド版新幹線の実現に向け、まさに国をあげた売り込みが続いている。

■新興国進出 JICAなどを通じ、政府の手厚い支援

このように、最近、海外インフラ整備事業をめぐり、開発協力の文脈から民間企業の海外展開を支援する動きが活発化している。例えばJICAは2010年度、事業の実現可能性を探るための調査資金を支援する新制度を相次いで立ち上げた。

一つは、人口の急増により大気汚染など都市環境の悪化が懸念されているアジアなど新興国において、官民で役割、コスト、リスク負担を分担しつつ、都市鉄道や廃棄物処理、水処理など社会インフラの整備・運営や各種サービスを提供する「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業」への参入を検討する企業を対象としたもので、最大1億5,000万円の計画策定費を支援する。これまでに、京阪電気鉄道など3者が共同提案したベトナム・ハノイ市の都市鉄道5号線の運営事業、オリックスなど7社が共同提案したインドネシア・ジャカルタの下水処理事業などが採択され、調査が進められている。

■貧困層を対象とするBOPビジネスは将来への布石

ガーナの伝統的なお粥 “KOKO”に味の素が開発した栄養強化サプリメントをまぜ試食する子どもたちガーナの伝統的なお粥 “KOKO”に
味の素が開発した栄養強化サプリ
メントをまぜ試食する子どもたち

また、年間所得3,000ドル未満で暮らす世界約40億人の貧困層、いわゆるBOP(ベース・オブ・ザ・ピラミッド)と呼ばれる人々の生活改善につながる商品開発やサービス提供を通じた「BOPビジネス」の立ち上げに取り組む企業には、1件あたり最大5,000万円の調査費用を支援している。

企業にとってはゆくゆく所得水準が上がり購買層となることを見越した巨大市場の先行開拓という意味もあるBOPビジネスは、近年、急速に関心を集めており、ガーナで乳幼児の栄養改善につながる食品の開発普及に取り組む味の素や、バングラデシュでもやしの原料である緑豆の栽培を通じて雇用促進を図る雪国まいたけなどが現在、この支援制度を活用している。

さらに、民間の金融機関に代わり、リスクが高い途上国で社会的インパクトが大きい事業に取り組む民間企業を、出資と融資によって支えるJICA海外投融資制度も10年ぶりに再開され、2011年11月には、ベトナムの産業人材育成事業に対して、再開後初となる融資契約が結ばれた。融資を受けるエスハイ社は、「日本のモノづくり精神」を理解する熟練労働者や技能労働者の育成を通じて、裾野産業の高度化と集積を喫緊の課題とするベトナムの工業発展の実現に取り組んでいるユニークな会社だ。同社の取り組みを通じて、人材不足に悩む日本の中小企業の活性化やベトナム進出の後押しにもつながることが期待されている。

来日前にエスハイ社の運営するKAIZEN日本語学校で熱心に日本語を学ぶ技能実習生たち

来日前にエスハイ社の運営するKAIZEN日本語学校で
熱心に日本語を学ぶ技能実習生たち

このほか、同年6月に経済産業省が発表した「中小企業海外展開支援大綱」では、開発途上国においてインフラやBOPビジネスに取り組む中小企業を、貸付や出資を通じて間接的に支援することがJICAの役割として初めて明記されたことを受け、中堅の中小企業の海外投融資のための準備調査制度や専用工業団地・レンタル工場の整備に向けた支援も2011年度中に開始することが決まった。

■官民連携は日本の“お家芸”

実は、こうした官民連携は日本が元祖である。日本の製造業や商社は、60年代からODAを活用して東南アジアを中心に各国にネットワークを張り巡らせ、貿易、投融資事業、そしてインフラ整備の経済協力による三位一体で世界に前例のないアジアの経済発展に寄与した。こうした日本の取り組みが「東アジアの奇跡」を底支えしたとも言える。

例えば、80年代から90年代前半にタイ東部のチャチェンサオ、チョンブリ、ラヨン3県を中心に行われた東部臨海地域開発事業では、工業団地の造成や港湾、道路、鉄道、電力、工業用水などのインフラ整備に1,000億円以上の円借款を供与し、日本企業も含めた外貨の呼び込みを成功させ、タイの経済発展に大きく貢献した。

■新興国市場の開拓は“日本株式会社の命題”

その後、国際社会からの“ヒモ付き批判”の圧力を受け、円借款の受注を日本企業に限定しない「アンタイド化」を進めたり、特定の1社だけを支援しないという「一社支援」禁止の原則を掲げるなど、開発協力は一時期、民間企業の国際展開を支援するという役割にあえて背を向けた。しかしながら近年、人口の減少により国内市場が頭打ちとなる一方で、新興国の人口が急増し、巨大なインフラ需要が見込まれることが明らかになり、2010年春に閣議決定された「新成長戦略」でこの新興国市場を官民一体となって開拓していく方針が打ち出された。ここに来て、開発協力は再びビジネスに急接近することになったのである。

とはいえ、すでに欧米のみならず、国際競争力を高めた中国や韓国も国家ぐるみで新興国市場に猛烈な売り込みを展開している世界市場に、「日本連合」が今から乗り込んで戦いを挑むことは容易ではない。実際、例えば鉄道輸出も、欧米標準を国際標準に位置付けることで世界市場を握ろうとする欧州勢の戦略の前に、日本は各地で苦戦を強いられている。だからこそ、売り込む側だけでなく、相手国側にどれだけ協力者となってくれる親日派を増やすことができるかがカギとなる。冒頭の研修にも「実際に日本の新幹線システムに触れ、その良さを納得してもらうことで、入札になっても欧州仕様に偏重せず、日本勢が参入しやすい仕様条件を設定してもらいたい」(JICA)という狙いがある。

■世界の親日派ネットワークを生かせ

親日派の一人であるミャンマー工学会会長のハンゾー氏。国内の政治状況により海外からの支援が中断していた間も、かつて日本から学んだ橋梁技術を生かして国内でインフラ整備の陣頭指揮を取り続けた親日派の一人であるミャンマー工学会会長のハンゾー氏。国内の政治状況により海外からの支援が中断していた間も、かつて日本から学んだ橋梁技術を生かして国内でインフラ整備の陣頭指揮を取り続けた

あまり意識されていないが、これまでの日本の長い開発協力の歴史の中で、多くの親日派が育ち、世界各地に根付いている。例えば、民主化への転換で注目を集めているミャンマーで土木学会の会長を務めるハン・ゾー氏は、建設省職員として80年代に日本の橋梁建設プロジェクトに参画し、技術を習得。その後、外国からの援助が途絶え国際的に孤立し、新しい技術の習得が困難になった同国で、一貫して現場で陣頭指揮を取りつつ国内の橋梁建設を進めてきた。

また、今やアジアビジネスの中核拠点であるシンガポールでは、リー・クワンユー首相(当時)のたっての希望で、70~80年代にかけて日本の労使協調やカイゼン運動を伝える技術協力が行われた。その卒業生の1人、経営コンサルタントのラム・チュンシー氏は、まさにそのプロジェクトで育った日本親派の代名詞のような人物である。

研修を終えた後、同氏が友人と最初に立ち上げたコンサルティング企業の名前は、「TEIAN」。その後、独立して「Hoshin」を立ち上げた。社名の由来は日本語の「提案」と「方針」だ。現在、同氏はマレーシア企業など数社から依頼を受けて近隣国の工場を回り、かつて学んだ改善の徹底や日本型経営を指導している。

このほか、創立以来50年以上にわたり開発途上国の産業人材の育成に取り組んできた海外技術者研修協会(AOTS)が国内外で実施している研修には、これまで世界170カ国からのべ35万人以上が参加。帰国研修生たちが自主的に立ち上げている同窓会も43カ国71カ所に上り、自国の経済産業の発展や日本の産業界との関係に大きな役割を果たしている。

日本が今後、新興国市場でどのように存在感を示すことができるかは、日本がこれまで世界で育んできたこのような親日派たちを他国にはない強みとしていかに取り込み、ノウハウと技術をセットにして売り込んでいくための重要な布石として活用していけるかどうかにかかっているのではないか。

次回は、こうした開発協力とビジネスの急接近を受けて民間側で起こっている様々な変化について、具体的にご紹介しよう。

[ 2012/1/31 更新 ]

http://bizgate.nikkei.co.jp/special/emerging/market/index.aspx?n=MMBIb2000027012012

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About Uy Do

Banking System Analyst, former NTT data Global Marketing Dept Senior Analyst, Banking System Risk Specialist, HR Specialist
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